| 長岡壽一講演録(事務員研修) 期日 1991(平成3)年6月1日(土) 13:40〜15:00
会場 山形市桜町 平安閣 4階会議室 講師 山形県弁護士会会員 弁護士 長 岡 壽 一 対象 山形県弁護士会会員の法律事務所勤務の事務員 (概ね経験3年以内の者) 平成3年度 山形県弁護士会 事務員研修会 テーマ 弁護士と事務員の関係 −−−事務員の心がまえ−−− ただいまご紹介をいただきましたナガオカトシカズです。 今日お配りいたしましたレジメにそってお話しをします。 その前に、土曜日の午後にもかかわらずお集まりいただいた事務員の方々、それから弁護士会の研修委員会の委員の先生方にお礼を申し上げます。 1 職 業 と 人 生 人生の中で職業とはどういう位置づけなのか、これについてはみんな1人ひとり考え方が違うと思います。 皆さんは、私からしますと半分くらいの年齢の方もいるわけですが、学校を卒業されて比較的間がないという方々が多いと思いますので、学校生活と職業人とを対比して私なりの考え方をお話ししてみたいと思います。 −−−学生と職業人との違い まず、職業に就いた状態と就かない学生の状態とでは、ある観点から見るとまるっきり逆です。というのは学校に入っているときは、自分が授業料を収めて、だいたいは自分でなく自分の親かもしれませんが、自ら授業料を払って先生の話を聴き教えてもらうという立場です。これが一転して学校を卒業しますと、自分が人からお金を貰って仕事をする。その金銭的な対価関係の視点からしますと、まるっきり逆の立場になるわけです。 ですから、学生のものの考え方なり行動様式というものを少しずつ積み重ねていって社会人になるのではないということなのです。3月までと4月からとはまるっきり違うということを自覚しなければなりません。学校でいえば学校に勤務している教師の立場になるわけです。学生では決してないということです。 −−−成績評価基準が広がる また、学生の場合は試験があります。試験の採点評価は0点から100点までです。いくらがんばっても120点とか300点とかは採れません。その半面、いくら何もしなくても0点より下には決してなりません。ですから100点から0点の間でしか評価されないのです。 それが職業人となればどうでしょうか。場合によってはマイナス点もつきます。200点も500点も採れるかもしれません。上にも下にも際限がないということです。それだけ責任があるということですし、逆にいうとやりがいがあるはずです。そういう立場になっているということを最初に考えておく必要があるのではないでしょうか。 −−−仕事を通して自己実現を レジメのこの項目の中に職業を通じての自己実現という言葉があります。この項目の中ではこの「自己実現」という言葉にアンダーラインでも引いて目立つようにしてください。つまり、自己実現とは、自分がどれだけのことをやれるだろうかということについて、何でもどんなことでもいいんですけれども、その中で特に職業を通じてどこまで自分を高めていけるかという目標をもって、その目標を実現していく過程で、自分が満足できて自信をつけ、自分の人生はなんとすばらしいのだろうかという感動を得ることができるという意味なのです。1日24時間ですけれども、実際活動している時間の中で職業の占める位置がどれだけ大きいかということは、皆さんが毎日毎日経験していることだと思います。 −−−知恵と判断能力を養う 次に、レジメに書いてある、知識と知恵、認識と判断・評価ということについてお話しをします。知恵というのは、知識がなければ発揮できません。まず基礎的な能力としての知識があって、その知識に基づいてものを観る、ものを認識するという能力が備わります。そして、次の段階で、その知識と認識に対し、判断をする評価をする、そこに知恵が働くわけです。ですから、まず最初に、いろんな知識を自分で頭の中に整理して蓄えることから始めなければなりません。そうすれば次の段階において判断をする、知恵を出すというところの応用能力が養われていき、その土台ができるということになります。 では、そのような知識、更に知恵や判断能力を高めていくためにはどうすればいいのか、ということが、一つの職業人としての心構えということになると思います。 −−−向上心と仕事の楽しみ 広い視野から、常に向上心をもって、自分の能力を伸ばそうと思って物事に取り組むことが大事だと思います。どんなことでも新しく始めるときには好奇心がなければなりません。いやいやながらやっている、他人から言われたからやむをえずやっている、早くこの場から逃れたいと思いながらやるのと、これはなんか今までやったことがない、経験したことがない社会や世間があるとか、目の前にあるのが何なんだろうかという好奇心を持つ、この態度が積極的に前向きなのと、後ろ向きで消極的なのと違いが出てくるわけです。同じことをやっていても、やはり結果が違ってきます。身につき方が違ってきます。その好奇心を持つことが大事だと思います。 そして、その自分のやっている仕事を楽しむことがよろしいのではないかと思います。楽しくやらなければ、たとえば使命感や義務感というのだけでは、楽しくなければ仕事は長続きしません。自分なりに1人ひとりが、できるだけ楽しくやる方法を考えるべきだと思います。 そして、最終的にはその仕事を好きになるという領域に達します。その毎日毎日の中の大部分を占める職業、仕事というものが大変楽しく、また好きになって充実したものとなるわけです。 −−−プロとアマの違い 弁護士の補助者としての事務職員の仕事をしていく中で、今述べたような考え方と心構えををもって毎日毎日新たな経験をしていくことによって、必ずいろんな考え方、ものの見方、それから判断の仕方、行動の仕方、問題に対する対処の仕方、解決の仕方が、知らず知らずのうちに身につきます。このような「身についた」という状態が最高の段階なのです。 レジメの最後のところにプロとアマという言葉を書きましたけれども、条件が与えられて体が動くのがプロです。条件を与えられると頭を動かす、つまり頭で考えようとするのはアマチュアです。ですから、身につくというのは、条件に対して一つのパターン化類型化されたものが自分の体に蓄えられて、それに対する反応が自然に出てくるというのが最高の状態、発達段階になるわけです。 −−−資格試験への挑戦 そして、今のようなことでやっていきますと、単なる弁護士の補助職としての事務員だけでなく、もっともっと何か自分の領域を広げてみたい、ある分野についてもっと深く勉強してみたい、という気持になるはずです。 そこでいろいろな資格試験があります。皆さん方も自由に受験できるものがあるはずです。たとえば行政書士、たとえば宅地建物取引主任者の試験、たとえば社会保険労務士の試験、この3つくらいですと、比較的自分が興味を持ちながら勉強することにより必ず取得できると思います。更に高度になれば、司法書士の試験なども関連する領域として出てくるかと思います。 試験の勉強をするということ自体と、自分がどこまでやれるのだろうかという自己実現の可能性と、更にそれに挑戦していくという積極的な生き方として捉えてみてはどうでしょうか。是非何かやってみればよろしいと思います。 −−−日々新たに 人間としてあるいは職業人として、この仕事に職業にどのように関わっていくのかという原則的な姿勢といいますか、基本的な考え方をお話ししたわけですが、このような考え方があってもすぐ自分の仕事に役立つわけではありません。今お話ししたことは毎日毎日自分で繰り返して、今日はこういう観点から問題意識を持って仕事に取り組もうという毎日毎日を思い起こして日々新たな仕事をする、また再び思い起こして仕事をして自らを高めていくという繰り返しの中で、基本的な心構えをもっていただきたいというお話しをしたわけです。 2 事務処理システム 次に、具体的な仕事を行なう上での基本的な考え方、目の前に仕事というものがある、事務というものがあるという場面で、どのような考え方で対処していくべきなのか、これが事務処理のシステムということです。 −−−システムとは何か システムという言葉は、最近いろんな場面や分野で出てくると思います。特に耳にするのは、コンピューターの関係だろうと思います。たとえば、システムエンジニアといえばコンピュータのソフトをつくる技術者のことを指します。 ではシステムとは何なのかといいますと、明確な定義はありませんし、たぶん皆さん方も言葉は知っているけれども、システムとは何なのかと問われると、誰も答えられないと思います。私も、皆がそうだと納得するような、皆が聞いてこれがシステムなんだと判るような答を出すことはできません。 ただ一般的に言いますと、こういうことだろうと思うんです。一つのボックスがあり、この箱に左から要件をインプットする。そして、このボックスの右側にアウトプットされる。入力して出力される。何を入力すれば何が出力されるのか。この四角のボツクスの中にあるものがシステムなんです。 たとえば病人を入れて健康な人が出てくる。これが病院のシステムです。同じように、困り事をもって悩んでいる人が入って行くと、出てくる人は大変すっきりして悩み事が解消されて出てくる。これが法律的な悩みであるならば、法律事務所などのシステムだし、一般的な人生上の悩みであるならば、人生相談とか、占いとかそういうもののシステムなんです。 それで、このような認識からシステムとは何なのかということを考えていただきますと、結局、この一般の人から見れば、素人の人からみれば、システムとはブラックボックスなのです。つまり、中が何になっているのか判らないものです。機構です。組織です。そういうものの実体が何か、それを分析していく、分解して解明していくというのがシステムの分析、ものの考え方ということです。 ですから、一言で言うならば、あなた方がそして我々弁護士が常に構築しなければならないのは、法律事務所のシステムです。弁護士としてのシステム、つまり法的な紛争解決、あるいは紛争の未然防止、法律的な行動様式のパタ−ン化そういうものを明らかにするため、そして、一般人や企業に対して提供していくということが我々の求めているシステムなのです。 −−−独自のシステムを構築する そして、その個別のシステムは、これが正しいシステムでこれが誤ったシステムである、というように区別した評価はできないと思います。つまり山形市内には20数軒の法律事務所があり、31名の弁護士がおります。その中でそれぞれこれが我が事務所のシステムなんだということがあってよろしいわけです。 ですから、私は、この講義の中で、法律事務所のシステムとは、弁護士のシステムとはこうなんだ、あなた方こうやるんですよというような教え方をするつもりはありません。ただ、今お話ししているようなものの考え方、問題認識をもって、自分なりの見方というものをもって、自分の事務所をもう一度振り返ってみればどうでしょうか。そうすることによって自分なりのシステムが浮かび上がってくるはずです。 そして、それを事務員同士で、あるいは弁護士と事務員との間で、いろいろ協議をしてそして検討を加え、場合によっては試行錯誤を繰り返しながらその自分たちが行なうひとつのブラックボックスをブラックでなくし、自分達がきちんと解明できるというものをつくりあげて認識していくということが重要かと思います。 −−−Plan−Do−See その中で一般的にすべてに共通していえるのは、Plan−Do−See−Plan−Do−Seeという繰り返しなんです。 Planというのは計画を立てるということです。計画の前には目的があります。ですから、目的に基づいて目的実現のための計画を立てるのが最初です。 そして次にそれを実行していく。Do。 更に、実行した結果を必ず振り返ってみる。See。反省ということです。反省の省というのはSeeです。反省の省というのは省みるということです。ですからこのSeeと同じ意味になるわけです。 更に具体的にお話ししますと、目的・目標の設定ということが最初にあります。 −−−手段方法の選択=知識の重要性 そして、その目的を実現するためにどのような手段、どのような方法をとるべきかという手段の選択というのが第2番目にあります。この手段の選択というところについて重要なのは、どれだけの手段を考えられるか。たとえばひとつの目的が実現されるべき目標が与えられた場合に、これをやってくれと言われた場合に、その手段はこれしかないと考えればもう選択の余地はないわけです。1つしかないわけです。ところがA、B、Cと3つの手段を自分は知っている、ある目的を実現するためにA、B、Cと3つの方法があるということを知っていれば、この場合には、今日与えられたこの具体的問題解決のためには、Aがよろしいのか、それともB、Cの方を選ぶべきなのかということが、自分の頭の中でいろんな状況との兼ね合いの中で判断されることになります。ですから、先ほどお話ししたような知識をどれだけ自分の中に蓄えているかということがここで試されるわけです。 人間社会の問題解決の場においては、自然科学の方程式のように、1つの目的を実現するためには、1つの物質を作り上げるためには、Aという公式しかないんだということでは決してないんです。場合によってはAをとるべきであり、場合によってはBをとるのが相当であり、場合によってはCをとるべきであるといえます。それから昔の司法試験の短答式試験にあったように、もしかするとゼロ解答、つまりA、B、Cいずれも違うということもあるかもしれません。 これをやれと言われたけれども今日はやらないほうがいい、という選択だってありうるわけです。ですから、そのような広い視野からいろんな選択肢の中から自分がどれを選ぶのかということで、その人の1人ひとりの、端的にいえば能力が分かってしまうと、この段階で分かってしまうということがいえると思います。また、その選択された手段に基づいて方法をそのとおり実行して得られた結果が、アウトプットされた結果が、本来の目的に添うものかどうかという成功・不成功、目的が達成されたかどうかという結果の評価についても、当然異なった結論になってくると思います。 −−−問題の所在を点検する そして、このような手段方法の選択をする。そして、その方法に基づいて実行する。実行というのは自分の体を具体的に動かして、そして行動をするということです。その行動の結果が1つのこのシステムの中から出てくるわけです。そして、その出てきた結果をみる。そして、当初の目的が実現されているのかあるいは、達成されていないのか、ということを判断しなければなりません。当初の目的、初期の目的の内容と照合して合致しているかどうかそれを見定める。そして、合致していない場合には、どこに問題があるのかということをさかのぼって問題を点検してみる、という作業が必要になってきます。 これはすごく難しいことを言っているみたいに受け取られるかも知れませんけれども、たとえば毎日毎日コピーをとるにしても、毎日のように依頼者とか相手方とかに郵便物を作成し発送する行為にしても、具体的な本当に誰でもが分かるはずのことにあてはめて考えてみるといいんです。そのやり方について完璧なものを作り上げているかどうか、自分はこれで最高だこれしかないと思っていても、もっともっと他の方法があるんじゃないか、もっとすばらしいでき栄えのものができる可能性があるのではないか、そしてそれは自分もできるはずだということを、毎日毎日もっと上にもっと高くもっと完璧にと思いながらひとつの宛名書きをする、ひとつのコピーをする。その繰り返しなんです。 それを繰り返し繰り返しやることによってそれが身につくんです。身につくとこれは決して忘れたりしません。忘れてもいいんです。身につくということは頭の中に入ったものではありませんから忘れるという概念にあてはまらなくなるわけです。身についてるわけですから。頭に覚えた記憶というのは必ず消えます。だけども身についたものは決して自分の身から離れていくことはしません。 −−−マニュアルを作る そのようなことをやっていく中において、それを自分自身でマニュアル化してみることです。マニュアルを作ってみることです。 マニュアルとは何なのか。マニュアルというものについてのものの考え方も、先程のシステムと同様いろいろあると思います。私なりに一言で言うならば、個々の目的が設定されてから最後の結論が出るまでの間に存在する事項を1つひとつ分解していくことです。分解していってそれをきちんと並べ代えることなんです。そして、そのとおり実行してみる。それがシステムの構築につながる。それを繰り返し繰り返し認識しながら問題点を意識しながらやることによって、行動することによって、自分の身についていく、というのがマニュアル化するという意味だろうと思います。 一般にマニュアルということで有名なのは、マクドナルドのハンバーガーショップのマニュアルやオリエンタルランドの経営する東京ディズニーランドのマニュアルです。そこで作られているものは、結局経営者側が作って、そこで働く人に「あなたはこのとおりやりなさい」というように押しつけられたマニュアルだろうと思います。 私がここで言ってるマニュアルはそうではありません。実際に働く人が自分自身の行動を毎日毎日やっている行動をもう1回分析しなおして、バラバラにしてみて、そしてもう1回きちんと体系立てて組み立ててごらんなさい。自分自身でマニュアル化することによってそのシステムが自分の身につきますよ、ということを言ってるわけです。そういうことを毎日毎日、毎日毎日というとなかなか難しいかもしれませんけれども、1週間に1つ位はできると思います。 −−−宛名書きの例 あまり抽象的な話ばかりしていてもわかりずらいと思いますけれども、たとえば宛名書きのマニュアルというものを作ってみる。たとえば宛名の書き方にしても、宛名というのはだいたいの場合には封筒に書きます。封筒は通常の場合は縦長が多いです。その一番上に郵便番号が5桁あり、その左側に切手を貼る。封筒の下の方には事務所の名前が印刷されているかもしれません。そうしますと、宛名というのはこの空白の部分に書くわけです。しかし、最初から切手を貼っている人もいないと思いますから最初は切手を貼っていないわけです。そしてここに宛名を書く。 ではどのような方法で書けばいいのか。いろんな方法があるといっても、まさか下から上に書き進める人はいないと思います。だけども人によっては、相手先の名前を、○○様という名前を先に書くのと、山形市△△町という住所を先に書くのと、2通りあるのではないでしょうか。どちらが果たして合理的なのか、ということを考えるということです。ですから宛名書きをするというシステムを考えた場合に、単に一般的に考えますと封筒にボールペンであるいはサインペンで相手先の住所氏名を書くことだ、ということで考え方を終わしてしまうと、もうそこから先には絶対進まないんです。その事務処理の進歩はそれで終わるんです。 ところが、そうじゃなくて、封筒はどの封筒を選ぶのか、必ずたいていの事務所には2通り3通りの封筒の大きさがあるはずです。その中でどの封筒を選ぶのか。どの筆記具を選ぶのか、縦書きなのか、横書きなのか、それから住所はどの住所録で見るのか、名前を確認する、住所氏名を確認するのはどの文書でどの名簿で確認するのか、どの机で書くのか、それから郵送する内容物、郵便物はどういうものか、それを考えていったらきりがなく、宛名書きをするというひとつの毎日何件もやっているはずのものが限りなく広がっているわけです。このような分析をしていって分解をしていくということが、このシステム化をしていく、マニュアルを作っていく、ということのやり方です。 −−−受取人の立場で見直す 最近は、ラブレターも書かなくなったものだから、自分が書いたものが受け取った相手の人がどのように見てくれるのか、ということをあんまり気にしなくなっているようです。読めればいい、届けばいいじゃないか、という感覚で書いている人が多いんです。ところが、受け取った人にとっては、そこに自分の名前が書いてあるんです。自分の名前が書いてあった郵便物を受け取って自分の名前が間違っていたら、あるいはへたくそな字で書いてあったら、なぐり書きしたような乱雑な字で書いてあったら、もう中身を見る前から嫌な気がします。ましてやその下に□□法律事務所と書いてあるわけだから、とんでもないやつだなと最初にもう反感を覚えてしまいます。中身を見てそこにどんなにいいことが書いてあっても、最初からそういう悪感情を持って中身を見ますと、中身が自分にとって悦ばしいものであっても、「なんだ、あの事務所に頼んでしまったがあんな事務所だとは思わなかった」とか、「別の事務所の方が良かったかな」とか、こういうことを思われがちです。ですから受け取る人の立場に立って考えてみるということが大切です。 −−−住所より名前を先に書く方法 そのためには、私は、封筒の真ん中から書くべきだと思うんです。まず、たとえば私に出してくれるのであれば、封筒の中央に「長岡壽一様」と書くわけです。そうすると右からも左からもきちんと真ん中に書けます。ところが住所の方から書き始めると、住所によってはいろいろと長いのがある、何とかビルの何号室とか、1行で収まるのと3行にもわたるのと、会社名を書いてなんとか部署の誰々様なんてなるとずっと左の方へ押せ押せになってくるわけです。左の方へ寄ってくると、切手を貼る場所がなくなってしまったり、消印が名前の上に重なったりします。そして、もらった方としてはなんだかちぐはぐな文書だなと、中身を見る前からそういうことを思ってしまうわけです。ですから、まず人の名前を誰々様というものを先に書く。それから住所をきちんとそれに添えて書いていく、という方法が私はいいと思っています。ただし、これは私の考えですから、こうしなさいということでは決してありません。 −−−反復試行する 今までそうでなくやってた人は、一度今お話ししたようなやり方をやってみて、果たしてどうだろうかなと、もうひとつ方法を自分がやっていなかったらその方法をやってみて、どちらが合理的かな、どちらがうまくいくかな、ということを選択できるわけです、判断できるわけです。その選択材料が今ひとつ与えられたわけです。そのようなことをやっていくことが、自分の毎日やっている事務の意味というものを考えていくこと、そしてそれを身につけることにつながっていくだろうと思います。 この項目の中では、このシステムというのは何なのかということを考え、この言葉を覚えてみてください。システムとは何なのか、自分にとってシステムとは何なのか、ということを覚えてみてください。そして毎日の事務の中で、反復して考えてみてください。 3 事 務 員 次に3番目の項目として、事務員というところに移ります。 今までお話してきたようないろんな基本的な認識に基づいて、いろんな事務に携わる人、つまり事務員の立場というものを考えた場合に、一番大事なのは標題に書きましたように弁護士と事務員の関係ということです。 弁護士と事務員の関係といいますと3つの要素に分かれます。ひとつは弁護士、ひとつは事務員、3つ目は両者の関係ということです。ですから弁護士と事務員の関係を理解するためには、事務員のことだけがわかってもだめです。弁護士のこともわからなければならない。弁護士は何をするのか、ということを分からなければならない。そして、自分の職務も分からなければならない。更に、その関係、昔の言葉で言うならば“分際”というのがあります。通常あまりいい意味では使われず、時代劇などで「百姓の分際で」なんていうのが出てきますけれども、“分際”つまり本来の意味で解釈すれば弁護士と事務員の分際はどこにあるのか、つまりどこまでが弁護士の領域でどこからが事務員の領域なのかということをよく認識するということです。 −−−まずボーダーを認識する 最近は、ボーダーレス、つまりその分際がなくなっしまっているということがよく言われます。しかし、ボーダーレス、弁護士と事務員のボーダーレス、分際がなくなってきてお互に入り組んでいる、ということを理解することのできる領域に達するためには、まず前提として分際をきちんと線を引いて認識してみることから始めなければなりません。そうでないと、最初から分際がどこにあるのかわからないままにボーダーレスだとか言ってごちゃまぜしてやってしまうと、後で何が何だか自分のアイデンティティーというものがわからなくなってまいます。 そこで、この項目の中でレジメにかぎかっこをつけている言葉が3つあります。ひとつは「補助者」という言葉です。そして、あとの2つは、その下の方に書いてありますように「報告」というのと「秘密」ということです。事務員が自分と弁護士との関係で常に念頭に置かなければならないのは、この3つだと思います。どんな仕事をするについても、この3つは常に頭の片隅に置いておかなければなりません。 −−−補助者として つまり、第1は、弁護士の補助者であるということです。弁護士に代わるもの、あるいは弁護士と同等の資格や立場で判断したり仕事をすることができないということです。たとえば、同じ様な例として裁判官に対する書記官や事務官、検察官に対する検察事務官、たとえば医師に対する看護婦、歯科医師に対する歯科衛生師というような補助職があります。それと同じように考えなければならないということです。ただし、それは、レベルが低くてもいいという意味では決してありません。 皆さん、必ず今までに何回か、病院とか診療所に行ったことがあると思います。その中で、医師に対する信頼と同じくらいにそこで働いている受け付けの人から看護婦まで、それらの補助職に対する信頼や期待というものがあったと思います。そして、それが信頼に足りるものなのか、それとも危ういような感じや印象を持つか、それは医師そのものよりも医師のところに行くまでの看護婦、熱を測ってくださいとか、こういう検査を先にしますとか言ってくれるいろんな段取をつけてくださる看護婦とか事務職員の方、その方が、きちんとしたシステムにのって納得のいくような対応をしてくれているかどうか、それによってその診療所や病院という全体のシステムに対する信頼の有無が決まってくるんじゃないかと思います。皆さんの経験からもそうでしょう。 −−−独立した任務を この例からもわかるように、ただ単に補助者といっても、従属的なもの、付属的なものという意味では決してないということです。そして、弁護士に準ずるような責任と義務を負っているものと社会の人たちが期待しているのです。そのような目で事務員を見ていると言えると思います。あなた方が風邪を引いたとき、何かけがをしたりして、病院に行って治療を受けるときに、看護婦に対して持つ印象と同じように、事務所に来る人、電話をかけてくる人は、あなた方に対してそういう評価をしているということです。期待をしていると言えると思います。 そこで、この中で考えていかなければならないのは、その立場、補助者としての立場に基づいて、しなければならないことと、してはならないこととの線を引いて、1つひとつのことについて、あるいはその状況、シチュエーションごとに考えてみるという癖をつけることです。そしてまた、ひとつのことをやってみたら、その自分の行動について振り返って反省をしてみるということの繰り返しが必要かと思います。 −−−報告を励行すること そのような日々の事務を行なう中で重要なのが、積極的に励行するという意味において必要なのは、「報告」ということです。つまり、事務員があることを行なった、あるいはある条件や情報が他からその事務所に与えられたという場合に、それを1つひとつ必ず弁護士に報告をするということです。弁護士は、最終的に判断をする立場にありますけれども、判断をするためにはその前に必ず事実関係の認識をしなければなりません。その認識する事実が広ければ広いほど、そして確実であればあるほど、正しい判断に結びついていくものと思われます。 しかし、その与えられた材料が不確かで、あやふやで、そして少なければ、正しい判断が出てきません。つまり、システムがどこかで壊れてしまうわけです。ですからそのためにも、事務員が弁護士に対して判断材料を常に与え続けるのだという考え方です。それが報告ということだろうと思います。ですから、この報告ということについて、1日の事務の中で何を報告すべきなのか、あるいは何の報告はしなくてもいいものなのかという報告の分類、分析をしてみる必要があると思います。 −−−秘密・プライバシーの保持 それから、次に、消極的な意味で大切なことは、「秘密の保持」ということです。 ところで、秘密というのは、すごく限定して解釈される、認識される傾向があると思います。たとえば、私が今日の朝ごはんを食べてきたかこないか、食べたとすればどんな食事をしてきたのか、私があなた方にお話しする、この場でお話しするということになると、私のこと、私自身のことであるならば秘密の暴露にならないわけです。自分のことですから何を喋ってもてもいいわけです。ところが、他人のことを喋ってしまっては、他人の秘密を暴露したことになるわけです。 私がここで、今日の朝ごはんはパンとコーヒーだった、と仮にそういうお話しをしたとすると、他人の秘密を知らせたことになってしまいます。つまり、私の家族の秘密を洩らしてしまったということになるでしょう。そんなこと秘密じゃないでしょうと思われるかもしれないけれども、秘密の考え方というのは人によってみんな違うと思います。朝食をパンにしているのか、ごはんにしているのか、それは人には知られたくないと思っている人もいるかもしれないでしょう。 ですから、広い意味で自分以外の他人のプライバシーに関する事項をその他人以外の第三者に話をするというのは、これはその人の秘密を暴露してしまったことになるんだということです。たとえば、もちろんそういう秘密の中でも洩らしてはならない秘密と洩らしてもいい部分とがあると思います。けれども、本来秘密というものはそういうものなのだ、広い意味で考えなければならないんだということを説明しているわけです。 −−−「秘密」の広い意味 たとえば、あなた方1人ひとりが給料をいくらもらっているか、というのはみんな秘密なのです。1人ひとり自分の秘密だけではなくて、その給料を支払っている弁護士の秘密でもあるわけです。だから自分だけが独自に自然界の山に入って行って何か拾ってきた、山菜でも採ってきたというのであれば、これは誰の秘密も侵さないでしょうけれども、自分が事務所の中でどれだけ給料をもらっているかというのは、その弁護士や同僚の秘密を侵害することになってしまうわけです。 だから秘密というのは、すごく広く考えなければならない、そして他人のことを第三者にお話しする場合には、その秘密を話していもいい相手なのか、話してもいい事項に係るのか、それを考えなければならないんだということです。 ですから、くれぐれも誤解のないように、秘密というのはすごく広い、そしてその秘密を絶対喋ってはいけないと言っているわけではない。その秘密の中でもお話ししてもいい秘密なのか話してはならない秘密なのかを最終的に自分の判断で、その場その場で考えながら行動、言動をしなければならないのです、ということを言っているわけです。そして、そのような消極的な意味で、つまり人の秘密をむやみに理由なく他人に話すようなことはないという意味合いにおいて消極的な態度を積み重ねること、それが結局は依頼者を含めていろんな関係者との信頼関係につながっていくのです。 −−−信頼の基礎は何か 積極的な意味では、仕事をきちんきちんとやっていくということ、それから消極的な意味では人の秘密あるいは人の悪口、評価にかかるようなことを第三者に発表したりしない、この2つの組み合わせで、その人の信頼性、その事務所の信頼性が出てくる、あるいは逆に破壊されるということにつながっていくということです。 4 具 体 的 事 務 次に、ただいまのお話しのようなものの考え方に立ったうえで、具体的に自分がやっている日々の事務というものについて、洗い直してみることが必要だと思います。 事務の内容の確認については、たとえば、第二東京弁護士会で出版している「新法律事務職員ハンドブック」という大変内容の立派な充実したものが出ております。普通の本屋でも売っていますし、誰にでも手に入るものですから、こういう参考書に基づいて、自分がやるべき、事務所でやるべき仕事がどんなものがあるのかということを見てください。 −−−職務の一覧表を作る その中で最初に本の目次を見ながら、私はこの仕事はやれる、あるいはやったことがあるものには三角でも付けて、やったことのないものには何も付けない。そうすると自分が経験したことがある事務というものが全体的に分かってきます。やったことはあるけれどまだできないというものももちろんあります。それにやったこともあるし2回3回と繰り返して先程のようなシステム化ができて、自分は、それについては単独でできるようになったというものを丸印でも付けたり、あるいはマーカーで色を塗るとかしていきます。そうすると、自分が本来事務職員がやれる範囲の事務の中でどれだけの事務を今やっているのか、これからどれだけのことが空白地帯で自分がもっともっと勉強しなければならない分野として残っているのか、ということが現実に分かってきます。ただぼんやりと分かっているのではなくてきちんと目に見えて分かってきます。 そういうことを1年のうちに3か月単位ぐらいで繰り返しやっていると、自分の成長というものが現実に視覚でビジュアルなものとして分かってくるのです。そうすると、自分が3か月でこれだけできるようになったな、こんないろんな事柄をやることができたな、ということでまたその広がりを実感して仕事が楽しくなっていくのではないか、また仕事が好きになるのではないかと思います。そして、この具体的事務の各項目については、皆さん方が誰もが毎日やっていることです。ですから1つひとつ私がここで説明しなくともよいと思います。 −−−応対・応接について 最初の「応対・応接」についてというところで、相手が依頼者か相手方か、つまり相手方というのは依頼者の相手方、言葉を代えて言うならば敵対する相手方、あるいはそうではない当事者以外の第三者であるか、第三者の中でもたとえば弁護士の個人的な知り合いの方とか、あるいはゴルフ会員権のセールスの電話であるとか、第三者の中でもいろいろあるわけです。そういう相手方、相手に応じた適切な応対をしなければならない。どこまでできるかということを常に考えていくべきではないかという気がします。 そこで、相手が自分に対してどのような認識と知識と持っているのか、これをよく、よくといいますか一応のところは判っておかないと、自分がどのような対応をすべきかが結論として出てこないと思います。先程言いましたように、一般の人たちから見ますと、法律事務所というのはやはり普通の会社とか物を売っている商店やデパートとか、あるいは物を製造しているとか、そういう一般企業と違って特殊なものと見られています。医師とか弁護士は特殊な職業と見られているわけで、その中で働く事務員の方に対しても、ある種違った期待と対応をしてくることがあります。 −−−相談者への対応の仕方 たとえばある問題に対する判断を求められた場合どうするか。「弁護士に相談したい」という電話がかかってきた。ところが弁護士が不在である。「不在です」と伝えれば、「あなたでもいいから、こんな場合どうするといいんでしょうね、どうなるんでしょうね、教えてください。」と、電話をかけてきた人が困っているような内容を具体的事例をあげてペラペラとしゃべってきて、どうですかというふうに、「あなた法律事務所の事務員なんだからある程度わかるでしょう、弁護士でなくても教えてください。」という期待をもって問われることがあると思います。皆さん経験していると思います。その場合にどうすればいいのかということです。 結局、先程お話ししたように弁護士がやるべき部分と事務員がやるべき部分との区分けがきちんとなされていないと、今のような咄嗟のときにどのように対処したらよいのかわからない。あるいは対処の仕方によっては逆に相手方に対して大変失礼なことをいうような、あるいは自分は相手のためによかれと思って応じたことでも、内容に誤りや不十分な点があったりしてそれによって却って重大な問題に発展してしまうこともありうるのではないでしょうか。 −−−最も大事な日程管理 次に、日程の管理というのがありますけれども、日程というのは、それぞれその法律事務所に応じて工夫されていろんな管理の仕方があると思います。ですから、これについてもこのようにするんだよというような私がいうべき立場にはないと思いますが、1番大事なことなのです。約束事の中でも時刻と時間をきちんと守るというのが基本になっているわけです。ですから弁護士の日程の管理というのは、特にやり方を常に工夫しながら確実性とそれから迅速性を心掛けていかなければならないのです。 弁護士の予定を入れるということは、事務員が入れるということは、弁護士が相手方との間で約束をしたということなのです。約束をした、契約をしたといってもいいことと思いますが、その約束をした内容を守らなければならないのは弁護士なのです。実際口頭で約束した事務員は、その約束を守らなくてもいいわけです。つまり、他人(弁護士)の約束をあなた方が代わって決めてくれているわけです。だからその約束をすることによって弁護士がその約束をきちんと守ることができるかどうか、履行できるかどうかということまで考えないと日程の管理はできないということです。なんでもかんでも早ければいいというものでもないでしょうし、早く入れてしまったために弁護士がその日まで準備ができなくて結局変更せざるをえなかったとか、約束に従って来客があったけれども具体的な話まで進まなくて、却ってその依頼者と「何もやってくれていないではないか。」ということで信頼関係を損う、というようなこともないわけではないということです。ですから日程の管理については、特に注意を要するし、いろんな方法、確実性のあるよりよい方法を考えていくべきだと思います。 −−−道具の使いこなし それから最後に、道具についてですが、最近は、いろんなOA機器、オフィスオートメーションの機械が普及しております。コピー機械が無い事務所はないと思います。全部に入っていると思います。それから電話機はもちろんあるでしょうし、ファックスもある、それからワープロやコンピュータもたいていあります。 もちろん従来からの一般的事務用品はいろんなものがある。ボールペンひとつ例にとっても昔から使われている物もありますし、いま皆さん1人1人が手に持っている物を比べてみてください。まったく同じ物を使っている人はいないくらいにありとあらゆる種類の物が出回っています。 このような物を自分が事務所の中で事務を処理する際に、どのような道具をどのように効率的に使うか、どのように管理していくのかが事務の効率化と確実性を実現するという中ですごく大事なことなのです。ですから、その道具の性質・使い方、役割・機能というのをまずきちんと認識して理解することが必要だと思います。そうでないと本来持っている機能のうちの何パーセントしか発揮されてない、たとえば、コンピューターにしても100の機能があるにもかかわらず、実際に使われているのは5〜6パーセントに過ぎないということはよくあるわけです。 この具体的事務についてはこの程度にいたしまして、毎日やっていることですから、先程述べたような基本的な考え方をあてはめて、もう1度見直しをしてみてはいかがかという程度にとどめておきたいと思います。 5 弁護士と弁護士会 最後に、弁護士と弁護士会についてのお話しをいたします。 −−−弁護士の特徴 弁護士というのは、法曹三者の中の1つです。三者というのは、裁判官と検察官を含めた概念です。この法曹になるためには、司法試験という、法務省が管轄する試験ですけれども、この試験に合格した人が更に2年間、最高裁判所に付属、設置されている司法研修所の研修を終えることが必要です。それを卒業して弁護士会に登録した者を、弁護士といいます。 レジメに「入会により弁護士になる」というのはどういう意味かといいますと、司法研修所を出て弁護士になろうとする人は、その時点ではまだ弁護士ではないのです。日弁連に入会する、その日弁連という全国組織だけではなくて1つひとつの単位会、都道府県毎に設置されている単位会たとえば山形県弁護士会に入会して初めて弁護士になるのです。だから、私は、弁護士の資格を持っているのだけれども、どこの弁護士会にも入っていないんだ、という人は存在しないわけです。弁護士が何らかの事情で弁護士会を退会すれば、弁護士ではなくなります。これは他の国家資格の職業と相当違うところです。 たとえば、司法書士というのは、司法書士の試験に合格すれば司法書士の資格はあるわけです。だけれども実務を行なうためには司法書士会に入らなければなりません。司法書士の資格はあるけれども、当面司法書士の業務は行なわないという人は、司法書士ではあるけれども司法書士会には入っていない、会員ではないということになります。ただし、司法書士の場合には、司法書士の業務を行なうためには、必ず司法書士会に加入しなければならないとされています。行政書士もそうです。 これに対して、たとえば医師会。医師会というのは、個々の医師が入っても入らなくてもいいのです。組織率は、何パーセント位ですか。地域によって違いますけれども50パーセントから70パーセント位が平均なのかもしれません。つまり医師であっても、医師会に入らないという人はたくさんいるわけです。医師会は、ある意味では任意団体です。法令によって作られている団体であっても必ずしも入っても入らなくてもよいという団体も多いのです。 −−−強制加入団体ということ これに対して、弁護士会の場合には、弁護士になるためには必ず弁護士会に入らなければならない、ということになっているのです。これを「強制加入団体」といっていますけれども、そのような団体の特殊性もあります。 そして、その弁護士というのはどんな職務を行なっているのだろうか、ということについては、山形県弁護士会で作っております「あなたの弁護士」というパンフレット、あるいは日弁連で作っておりますいろんなパンフレットなどを見ていただきますと、弁護士あるいは弁護士会がどういう組織でどんな仕事をしているのかが説明されています。こういうパンフレットの類はどこの事務所にでもおいてあると思いますから、是非よく読んでおいていただきたきたいと思います。 それから裁判所の機構についても、裁判所の方でもいろんなものを出版していますので、そういうものの内容をやはり知識として持っておくべきなのではないかと思います。 −−−弁護士会の自治権能 その中で1つだけお話ししておきますと、戦後に従来のものとは中身を変えてつくられた弁護士法という法律があります。これは日本の団体の中でも極めて特殊な団体、あるいは職業を規制する法律としてつくられています。つまり、団体の自治がほぼ完全に認められているものです。 たとえば、同じ専門職業といわれている医師の場合、医師が非違行為をしたとか、脱税をしたとか、いろんなそういう非行がありますと、誰がその懲戒処分をやるか。これは医師会ではしません。つまり医師会に入っていない人もいるわけですから、医師会というのはそういう能力がもともとないわけです。これは、厚生省という監督官庁が行なうわけです。厚生大臣が行なうわけです。 たとえば司法書士についてはどうか。司法書士は、法務省、法務局の監督下にあります。ですから懲戒処分を行なうのは、そういう監督官庁です。つまり自分たちの所属する組織以外の組織が懲戒を行なうということになるわけです。 では、弁護士の場合はどうでしょうか。自分たちが加入している弁護士会が、全面的な懲戒権を持っております。仮に裁判所があの弁護士は大変けしからんと思っても、懲戒することは絶対にできません。もちろん弁護士会に対してあの弁護士はこういうことがよろしくないから懲戒処分をしてくれ、するべきだと弁護士会に申立てをするかもしれません。いずれにしましても最終決定権を持っているのは、弁護士会、その中でも懲戒委員会という組織なのです。こういう点で他の団体とは相当程度、というよりもまるっきり違った完全な自治権限が権能が与えられているということです。 −−−弁護士の使命と職務の独立 それはなぜなんだろうかということを考えてみることが必要だと思います。というのは、弁護士というのは、職務の場面によっては、あらゆる権力に立ち向かわなわなければならない。それも皆がまとまってではなくて、1人ひとりの弁護士が立ち向かって、その強い権力機構と対立し対決しなければならないという職責をもっているわけです。それがたとえば裁判所とか、法務省から監督されたのでは、とてもその職責を果たせなくなるわけです。 弁護士法の第1条に弁護士の使命として書かれていることがあります。皆さんもよく聞く言葉だと思いますけれども、「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」というこの2つの言葉です。これを弁護士が、そしてまた弁護士会が実現していかなければならないとされています。そして、そのためには、我々が日々自分を高めていくための、そして自分の足場をきちんと確認して、スタンスを確認するということを日々新たにしていかなければならないとともに、皆さん方もその法律事務所で働く事務員という立場で、弁護士のそのような目的実現のためにどれだけ自分が弁護士と法律事務所を通じて社会の役に立てるのか、ということを考えていくことによって、自分の使命感というものが明らかになるのではないかと思います。 残り10分間になりましたので、私の話は予定どおり終わらせていただきまして、あとは、今日の私の話を聞いていただいたうえでのご質問やご意見をお受けしたいと思います。 ご清聴ありがとうございました。 ------------------------------------------ 平成3年度 山形県弁護士会 事務員研修会 レジメ 期日 1991年6月1日(土)13:40〜15:00 会場 山形市 平安閣 講師 山形県弁護士会 弁護士 長 岡 壽 一 弁護士と事務員の関係 −−−事務員の心がまえ−−− 1 職業と人生 学生と職業人 試験・学業の成績 仕事に対する採点・評価 職業を通じての「自己実現」 知識−−−知恵 認識−−−判断・評価 広い視野、能力の向上 好奇心 楽しむ 好きになる プロとアマ 身体と頭 2 事務処理システム 「システム」とは何か 構築とその認識・理解 Plan−−Do−−See 目的・目標 手段・選択−−−知識・経験・判断 実行・行動 結果−−目的の実現、不達成 照合・反省 マニュアル化(システムの確立) 3 事 務 員 地位と職務 弁護士の「補助者」 対比例 裁判官−−書記官・事務官 検察官−−事務官 医師−−看護婦 弁護士と事務員の役割分担−−−認識と判断 弁護士の職務 事務員の担当職務 事務処理に関する基本的留意事項 ◎「報告」の重要性 弁護士の判断材料の提供 ◎「秘密」の考え方、その保持義務 当事者との信頼関係 4 具体的事務 応対・応接について 相手−−−依頼者、相手方、第三者 ・相手が自分(事務員)に対してどのような認識と期待をもっているか ・問題に対する判断を求められた場合 来客への対応 電話への対応 電話のかけ方、受け方 日程管理 事務所内における業務 事務所の外に出かける業務 郵便物の処理−−信書の秘密 受信 発信 文書管理 原本の重要性 文書作成 種類 様式 内容 文書提出・受領 顧客(依頼者)管理 関係者を知ること 道具について 電話 ファクス コピー コンピュータ・ワープロ 一般文具・事務用品 5 弁 護 士 法曹三者 弁護士 裁判官 検察官 司法試験 弁護士とは 弁護士法 弁護士の使命 職務の概要 弁護士会のパンフレット等 法律事務所 6 弁護士会 BAR ASSOCIATION 弁護士会の組織・役割・活動 日本弁護士連合会 山形県弁護士会 類例のない自治権能 弁護士会と弁護士の関係 弁護士会に入会することにより弁護士になる |