長岡弁護士講演録


2013(平成25)年12月9日(月)午後6時
山形市十日町 第2公園(屋外)

集会名 不戦集会(1941.12.8.の日米開戦日に)
参会者 山形県平和センター傘下の労働組合と市民
演説者 山形県九条の会憲法ネットワーク代表 長岡壽一
    (山形県弁護士会会員)Nagaoka,Toshikazu


「秘密保護法成立と憲法状況」
―事実上の改憲が進んでいる―





0 ごあいさつ

 「山形県九条の会憲法ネットワーク」という市民団体で活動をしております。その代表をしております、ながおかとしかず、でございます。
 きょうは、この定例の集会にお招きいただきまして、このように多くのみなさんにお会いする機会を得ましたことを、大変うれしく思っております。


1 秘密保護法は違憲だ

 まず、3日前(2013年12月6日)の国会で成立した秘密保護法について、秘密とは何ですか? それはどこにあるんですか? 誰が決めるんですか? 何が秘密なんですか? いくら訊いても、答えは「それは秘密です」という一言なんですね。
 つまり、何が秘密なのか、誰が決めるのか、それは誰にも分からない。そして処罰だけがされる。これくらい恐ろしいことはありません。懲役10年以下あるいは5年以下という刑罰が科せられる。
 そのような刑罰を科する場面について、憲法では、適正手続きの保障とセットで、罪刑法定主義といって、何をすればどのような犯罪になるのかが、あらかじめ法律で決められていなければならない、法律で、明確に、誰が読んでも分かるような内容にしておかなければならない、という原則があります。
 しかし、今回の法律では、私たち国民にとって、何が秘密なのかが、もともと分からないわけですから、本当に、その構成要件、刑罰法規に該当する違法な行為があったのかどうか、それについての故意があったのかどうかということが、極めてあいまいになってしまいます。


2 国家秘密と人権侵害

 その結果、刑事事件の捜査、取調べにおいて、取り調べたりあるいはいろんな広範な人からの聴き取りという捜査活動がなされるでしょう。そのような中で、人間が自由に言論して考えて行動できるというその自由性が、必然的にそして自然に失われてしまう、民主制においてそれが一番危険な効果だろうと思います。
 その法律成立後の、この2〜3日の新聞を読みますと、ある新聞にはこう書いてありました。「我々は民主主義の国だ。民主主義イコール多数決だ。国会議員を我々が選んでいるんだから、その国会の多数で法律を作るのは当たり前だ。何が悪いんだ、反対するほうが民主主義に反しているんじゃないか。」ということを、新聞の論説委員がですね、堂々と書いている。一番発行部数の多い新聞が、そう書いている。
 それくらい、公平な報道をするべきマスコミですら、あてにならない。何をもって私たちは問題の本質を見抜けばいいのか、ということが我々自身に問われているのが、この秘密保護法の問題だと思います。


3 憲法秩序に異質なTPP

 同じようなことが、TPP、このTPPの交渉というのはほとんど誰にも中身が分からない、発表されない、秘密のうちに行なわれている。その外交交渉の秘密を守るためにも、当然に今回の秘密保護法が適用されるでしょう。
 このTPPは、憲法問題として極めて重大な性格をもっています。TPPと日米安保条約、これはまったく同じ位置づけなんです。法の体系からしますと。この2つは、仮にTPPが条約として成立して国会で承認された、あるいはTPPでなく日本とアメリカの1対1のFTAという条約が締結されたということになると、これはどういう憲法体系に位置づけられるか。
 一番上にはアメリカ合衆国憲法があります。その下にアメリカの議会と法律がある、とくに外交については上院のほうが強い。その下にようやくTPPとか日米安保条約があって、そしてアメリカ合衆国の大統領がいて、その下に私たちの日本国憲法が位置付けられる。その下に日本の法律があって、我々国民がいる。こういう上下の関係になります。
 つまり、日米安保条約は、軍事的にアメリカが日本を支配する、そして、今も現実に軍事的には事実上占領状態である、という場面が国内外に多くあるわけです。とくに、沖縄などにおいては、それが日常的に恒久的に存在している。


4 TPPの収奪構造

 TPPの場合は、そのような軍事同盟ではないけれども、今度は、私たちの経済的な富・財産、お金、それがアメリカによって、アメリカ大企業によって、広く深く取って行かれる、これがTPPの本質です。
 関税だけの問題ではない。関税だけだったら、経済的にその商品を強くすれば、これはどこに対しても、世界に対して、その商品を立ち向かわせて競争させることができます。しかし、問題の本質は、そこにあるのではないんです。
 私たちの日本国において、今まで私たちの幸福のために、一人ひとりの個人の生活を豊かにして幸福を実現させるために作られてきたシステム、それがTPPによって経済面で否定される。
 アメリカ企業と日本の企業とを対等平等に競争させるためには、日本企業を国や自治体が保護してはいけない。そういうところに税金を使ってはいけない。こういうのがTPPの基本理念です。
 そのような基本的な問題があるという議論がほとんどなされないまま、関税の問題、農業、コメの問題というように、いわば矮小化されてしまっている。それくらいならいいじゃないの、消費者だったら安いコメが買えて、食料品やいろんな商品も安くなっていいんじゃないのと、こういう現象面だけを見がちです。
 しかし、TPPと安保条約は法律体系の同じ位置に置かれてしまって、我々国民は、その下に、つまりは最も力の強いアメリカの下に従属させられるという構造です。


5 幸福を否定する政権

 それだけではなく、関連して、私たちの国の中でも、今、憲法の改正改悪など、憲法の理念を実現できるかという重要な場面で、政治的にいろんな問題が出されております。
 その中で、現在の安倍政権の目論見の中核は、先ほどらい(他の方から)お話がありましたように、基本的にどこに問題が集約されるのかというと、その本質は、「戦争をする」ということです。
 戦争をするために必要な秘密を守る。個人の秘密を守るのではなく、国の大きな秘密を守る。逆に小さな秘密を暴露する。つまり、私たちの一人ひとりプライバシーをどんどん引きはがして、国が個人を監視する。お互いに人と人を監視させる。そのような法律が必ず出てきます。
 それが憲法体系を解体して、私たちの基本的な人権というものを否定して、そして、その先には、戦争をするという目的を実現しようとする動きがあるのだと思います。
 憲法を改正すべきかという問題ないし課題は、確かに検討すべきところはあるでしょう。
 しかし、今お話ししたように、秘密保護法ひとつとってみても、それから、TPPや、いろんな条約や法律を見ても、あるいは憲法の解釈、それを見ても、憲法違反、本来であれば憲法で許されない憲法違反のことが、事実上次々と起きているではありませんか。


6 改憲より怖い解釈変更

 このような状況の中で、憲法改正、9条改正反対と言うだけでは、実効性がないということです。私たちは今、憲法そのものが改正されていなくとも、憲法が改正されたと同じような場面に立ち至っている。その中で今から生きなければならない。このことを率直に正面から受け止める必要があると思います。
 例えば、憲法の解釈。法律が憲法に合致するようにして、さらに行政が法律に違反してはならないということを、行政機関に対して指導する立場、これには「内閣法制局」という行政府の部署があります。その内閣法制局では、憲法9条2項の解釈によって、絶対に日本の自衛隊が軍事力を持って外国に行ってはいけないという歯止めを、はっきりと表現してきました、この数十年来。
 しかし、今年(2013年)、安倍総理大臣は、その内閣法制局の長官を交代させました。その交代によって、今、これから、憲法9条2項の解釈変更がなされる。そのごく一部の人によって、長い歴史を持つ重大な解釈が変更されて、だから私たちはやれるんだ、となる。9条2項があったとしても、自衛隊を外国にやることができるんだ、武器も携帯して使用することができるんだ、それは憲法違反ではない、こういう論理を必ず取ってきます。
 こうなったのでは、私たちは憲法改正に反対だとか、9条の意味はどうだなどと、その理念をいくら声を高くして、心に刻んで言い続けたとしても、その見えないところで、下の方で、憲法よりもずっと下のほうで、法律でもないもっと下のほうで、行政の中で、憲法が無視されてしまう、憲法に反することが、私たちの人権を侵害することが、事実上堂々と行なわれてしまう、という現実があるのです。


7 9条と18条のセット

 憲法改正について一言追加しますと、9条2項の改正、これが自民党の本願、それに加えて18条の改正です。18条を削除する、これが二つセットになっています。
 18条というのは、あんまり私たちの生活の中では目にしないし、気にも留めない、そんな条文があったのか、というような隠れた部分です。奴隷的拘束から自由である、そのような拘束、あるいは意に反する苦役を受けない、その保障です。この条文をなくする、自民党の改正案ではそうなっています。
 この二つがセットになるとどうでしょう。つまり、戦争をするためには自衛隊だけでは足りない。国民皆兵または徴兵という、国全体の体制をつくらなければならない。今の憲法解釈の中では、徴兵制は18条に違反するから、そのような制度をつくるわけにはいかない、というのが定説です。しかし、18条をなくしてしまったら、国会の多数で法律を制定することにより徴兵をできるわけです。
 そのようなことが、秘密保護法から出発して、TPP、安保条約、その他のこといろんなものがそこに集約される、戦争ということに集約されていくということを、私たちはイメージとして現実に持たなければなりません。


8 頼りにならない裁判所

 そのような人権侵害の危機的状況に対して、最高裁判所が、国民の立場から憲法違反であるというような判断をしてくれるか。そんな期待はまったくない、できない、と言わざるをえない残念な状況にあります。
 最高裁判所は、今回衆議院の総選挙における一票の価値について、「違憲状態」だ、と言っただけで、あとは国会に任せるほかはないんだ、と言っています。そんな本来の司法の機能を放棄して国会や内閣に従属するような最高裁判所が、私たちの人権を守る最後の砦に本当になってくれるのでしょうか。
 私たちが、行政も、国会も、司法も、そういう国の機関に対して、そのまま受け入れて、それを信じて、私たちの生活や行動をしていても、本当の私たちの幸福は実現されないのです。


9 強く運動を続けよう

 憲法が13条で定めた、個人が幸福になる、幸福になろうとする権利、それを実現するためには、今、私たちが一人ひとりが、みなさんここで考えておられるような自覚を持って、そして、それを運動に展開しなければなりません。
 その運動は、今までの組織的ないしスケジュール的なものとは別に、一対一、数人、十数人 そういうグループの中でいつでも話合いをする、そして具体的な理解と行動につなげていく、その地道な市民運動というものが必要だと思います。そのような意味で、ぜひみなさんも、市民という立場で、一人の個人だという立場で、運動を起こし、この問題を考え、話合いを続けていただきたい。
 そうすることによって、私たちの人生の数年後、十数年後が、自分の力で作り上げられるものとして、観えてくるのではないかと思います。そのためには、そのイメージをしっかりと固めて、あるべきイメージを実現するために、今なにを行動するべきなのか、それをみんなで一緒に考えましょう。
 どうも、寒い中でのご清聴、ありがとうございます。





Copyright © 2013 Legal Counseling & Consultation Nagaoka Law Office. All Rights Reserved.